【備忘録6】ハモリの可能性No.1【作曲・アレンジ】


 作曲やアレンジを行うとき、それがVocal入りの楽曲である場合は特に、
ハモリのパートの重要性が際立ってくる。
しかし、ややもするとその重要性を見落としてしまって、妥協の産物にしてしまい
最悪の場合はメロディーやハーモニー、せっかく手を掛けたバッキングの完成度を
著しく低下させてしまうという諸刃の剣でもあることに気付かされる。
 かく言う私も「ハモリなんて最後に付ければいい」と簡単に扱っていて、
メロディーとバッキング出来て「ハモリ付けてねぇ。面倒くせー」と
半ば投げやりに付けてしまい、駄作を量産していた訳だが・・・。

 さてそもそもハモリを付けるというときに、何故上記のような適当な
創作スタイルになりがちなのかをじっくり考えてみると、面白い点に気付く。
まずハーモニーの様に様々な理論体系がメロディーやハモリには存在せず、
せいぜいスケール理論とちょっとした和音理論くらいしか影響しないため、
むしろ聴きやすさや、格好良さ、キャッチーなどと言った感覚的要素が
占める割合が非常に大きくなり、結果経験則や聴覚的感性に従う部分が多くなることだ。
 これが原因かどうかは断定出来ないが、そのため「慣れ書き」「聞きかじり」
「音に対する責任低下」等が発生し、様々な二次生成的呪縛を生むと考えられる。

●三度の呪縛

(譜例01)
譜例01.png

 ハモリにおける呪縛の代表的なものが「三度の呪縛」だろう。
洋の東西を問わず、基本的にメロディの上か下の三度にハモリを付けると
大体においてそれらしくなるのだが、それだけに「とりあえず三度で良い」と
高を括ってしまい、その中に生まれる悪い要素のデバッグを行わないという弊害を生む。
 譜例1を見てみると、基本2小節単位でハーモニーチェンジが行われ、
6-7-1を含むオーソドックスな進行にメロディがついている。
これに三度のハモリを加えた物が以下の譜例2と譜例3である。

(譜例02)
譜例02.png

(譜例03)
譜例03.png

 まず譜例2の下三度ハモリのケースについてみてみると、響きを悪くさせている
原因となっているのはC#mのコードに対するハモリのA音である。
下三度に付けるハモリの最大の欠点はIの時にメロディー音がルートにあると、
ハモリは必然的にIに対する6音に位置してしまうことだ。
コードがメジャーであればまだ良いのだが、マイナーであった場合6音は
好ましくない音になる。理由はマイナーコードの5音と半音のぶつかりになり
音が濁ることと、VIの第一展開形(C#mならA/C#)のニュアンスが出現し、
Iとしてのハーモニーの強さがぼけてしまうことにある。
 さらに言うと、Bのコードの部分のメロディーに6音があるため、ハモリは4音となり
強拍上に4音というアヴォイドが出現してしまうことも大問題だが、
長くなるので、アヴォイドの扱いについてはまた機会を改めよう。
 つぎに上三度のハモリについてみてみると、一見何の問題もない様に見える。
実際響きとしては全く問題ないのだが、上三度にハモらせると、
耳が自然と上音を聴いてしまい、結果元のメロディーがぼやけて
存在感が薄くなることを忘れてはならない。
 これを解消するためには、メロディーと違う動きを使うことが一番なのだが、
その事については、次の段に筆を譲ろう。

●平行の呪縛

 譜例2や譜例3は例として分かりやすいように、完全に三度を維持した状態で
書いてあるのだが、さすがにここまでずっと同じ度数を維持してハモらせることは
少ないだろう。
例えば、上三度のハモリの一拍目はB音にあるが、多くの場合これはC#音にするだろうし、
最後のB#音のハモリは多くはD#にするだろう。
 しかし、その方法論を用いても、メロディとハモリが同じ形に進行する平行の呪縛からは
殆ど解き放たれていないことに気付く。
平行というのは同じ方向に同じだけ進む事を言うのだが、響きが硬直化する原因でもある。
 人の耳というものは無条件に大きい音、特徴的な音、高い音を中心に拾おうとしてしまう。
このため、上に平行というのがメロディぼやかす所以がここに眠っている。
であるならば、どれか要素を削ってやれば上にあったとしてもしっかりハモってくれて、
メロディをぼやかすことが無くなるとも言えるだろう。

 ここまででポイントとなるのは以下の二つの点である。

 1.誰が三度でハモらせないといけないと決めたのか
 2.誰がハモリはメロディと同じ動き(平行)でないといけないと言ったのか

結論から言えばこの二つこそ、慣れ書き、聞きかじりの最たるもので、
全く根拠がない眉唾も良いところの酷い慣習と言わざるを得ない。

●三度の裏は六度である
 さて上三度ハモリについて、そのまま1オクターブ下げてみよう。

(譜例04)
譜例04.png

 上三度ハモリの時にメロディと平行で上に音があると、そちらが目立ってしまって、
メロディがぼやけると説明したが、であればそれをそのまま1オクターブ下げたたらどうか。
これが六度のハモリである。
 上三度の時の良好なハモリが下に沈むことで、メロディを引き立てかつ音に幅が生まれる。
非常に良好な配置となるが、メロディが低くなると六度の幅を持つハモリはかなり低い位置に
なってしまい、場合によって歌い手さんの音域を越えてしまう。

●三度と六度を混ぜてみる
 六度ハモリの最大の欠点である低くなりすぎることを3度ハモリを混ぜることで解消してみる。

(譜例5)
譜例05.png

 上三度ハモリで得られた良好な響きと、上に出ることでメロディがかすむ問題を解決し、
三度ハモリを一部利用して音域的問題を解決すると、ついでに完全平行の呪縛も
都合の良いことに断ち切ることが出来る。
 平行が断ち切れた瞬間にハモリはメロディとは別の動きをしはじめ、
一つの独立性を持つようになる。
その結果ラインとして生き生きとすることに注目し、更に残る問題を解消していこう。
 現時点で見られる問題は、下三度ハモリを復活させたことで出現した濁りのある部分だ。
譜例5に丸印を付けた部分が濁りのある部分になるが、ここをどのように解決するかを
考えてみる。
 初めの○印部分の問題は六度下のハモリがA音にあり、上述の通りC#mというマイナーコードに
対して厳しい響き且つ、A/C#のニュアンスを付加してしまうことにある。
C#mはC3-E-G#で構成されテンションの11音にF#があり、メロディのF#をこの音と見ると、
ハモリにはD#音があると、全体でC#m11の響きの中に落ち着かせられることから、
まずはD#音に配置してみる。
 二つ目と三つ目の○印はE音がBのコードに対して4音となり、メジャーコードのアヴォイドになってしまう
ことから、半音下のD#音にしてこれを避けることとしてみる。

(譜例6)
譜例06.png

 これで厳しい響きは遠ざけられ、平行の呪縛も完全に遠ざけられたばかりか、
ハモリ自身の独創性がかなり顕著なものになってきた。
 しかし喜んでばかりは居られない。新たに微妙な跳躍が生まれたり、
導音の連打が目立つ箇所が出てきてしまっている。
 初めの跳躍進行はD#音の前後にあるG#音が跳躍を生んでいる元凶なので、
この音を他の使用可能な音に置き換えるとすると、E音を選んでメロディとハモリを
1オクターブ関係にしてみるのが面白い。
 これにより綺麗な順次進行が得られると同時に、メロディに対して反対に向かう
反行進行となってユニークですらある。
 次の導音連打部分はメロディがB音の部分をオクターブにして、
次の音を順次進行させてC#としてみると下から上がる進行が生まれて、
音楽的にも高揚感が発生してくるようになる。
この様な対策を講じたものが譜例7である。

(譜例7)
譜例07.png

 こうなると、上三度平行や下三度平行の呪縛がいかにハモリを束縛し、
硬直的な創作スタイルに陥らせていたかが一目瞭然になる気がする。
 ハモリを付けるというのはやはり機械的な作業になってはいけない
重要な創作上のファクターであり、実はこういう所ほど細かく推敲して
作り上げていくことが、最終的な楽曲のクオリティに大きな影響を与えるのだろう。

 今まで当たり前だと思っていたことや、そうするのが当たり前と言われていることを
色々な見地から検証しなおして、創作スタイルを拡大していくことは、
一見地味かも知れないが、オリジナリティの確立に大きく影響する。
 音楽は聴覚的経験と時間軸の呪縛に支配されていて、それが最終的に聴くものの
感覚や記憶、イマジネーションや精神に及んでいくものだから、
初めに飛び込む聴覚に心地よさとインパクトを与えたり、音のメタファーとしての
役割を持たせることが出来れば、より印象深く味わい深い物になるのではないだろうか。

どうやらハモリの世界にはまだまだそんな呪縛がありそうな気がしてきた。

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